田村南海子, 塚本尚子
質的心理学研究 (14) 146-165 2014年3月20日 査読有り筆頭著者
ドナー家族が脳死下臓器提供の一連のプロセスで体験した出来事と心理的軌跡はどのようであり,提供後の家族の長期的な受けとめにどのようなことが影響を与えるのかを明らかにすることを目的に、家族3名のインタビューを行った。その結果,家族は脳死状態の患者を死と認識することを契機とし,患者の人生の意味の探索を始め意味を見いだす過程で臓器提供の意思決定をしていた。意思決定に際し,家族はドナーの生前の価値観が明確な場合ドナーの価値観を優先し,明確でない場合家族の価値観により意思決定していた。ここで,家族とドナーの価値観が一致することは,家族が自身の価値観を再構成することになり意思決定を肯定的に受けとめることに影響していた。一方,家族とドナーの価値観が一致していない場合,家族の心理的揺らぎが継続していた。脳死下臓器提供における看護ケアは,家族が患者の人生の意味を見いだす過程に影響を及ぼす重要な要素だった。