吾妻 壮
精神神経学雑誌 = Psychiatria et neurologia Japonica 120(6) 508-513 2018年 査読有り筆頭著者
精神療法は患者の固有の生を扱う営みである.精神療法においては,どこが同じかよりもどこが違うのかに注目し,言葉を用いてそれを引き出すことが重要である.言葉は,患者のこころの内部に関する情報を伝えるのみならず,患者の関係性のパターンをわれわれに伝える働きももつ.関係性を扱っていくことの重要性は,近年ますます高まりつつある.関係性は,こころのなかの欲動および体験に影響を受けるため,その両者を探求することが重要である.関係性を扱うために最初にすべきことは,自己イメージと対象イメージ,およびその間の情緒を把握することにより関係性を同定することである.精神療法の初期の段階では,患者の自己イメージ,対象イメージ,情緒を治療者が理解したことを伝えることが重要である.続いて,同定された自己イメージ,対象イメージの裏側にあるイメージと情緒を理解し,それを伝えるようにする.自己イメージおよび対象イメージの複雑性が増していくことは,治療の進行を示している.理論としては,Kernberg, O.F.の自我心理学的対象関係論が参照枠として大変役に立つ.Kernbergは,患者の精神内界は,自己表象,対象表象,およびこれらの両者をつなぐ情緒からなる対象関係ユニットによって構成されていると論じる.重篤な病理をもつ患者の場合,対象関係ユニットの間で急速な反転や相転位が起こるため,それらを適切に同定し扱っていくことが極めて重要である.(著者抄録)