竹内明香
日本統計学会誌. シリーズJ 42(1) 1-23 2012年9月 査読有り
日経225株価指数のボラティリティには,長期記憶性と呼ばれる長い自己相関と非対称性が観測されている.本稿は,その構成銘柄である個別株式のボラティリティに長期記憶性と非対称性が観測されるか,FIEGARCHモデルを用いて実証分析を行ったものである.その結果,個別株式のボラティリティが長期記憶過程に従っているとはいえないことが分かった.また,ボラティリティの自己相関が存在し,有意ではないが弱い非対称性の傾向も観測されている.これは株価指数の分析結果とは異なっている.さらに,2009年の金融危機を含む期間では,金融危機以前のデータ期間に比べて,非対称性のパラメータが有意に推定される銘柄数が増加した.次に,企業固有のリスクである個別リスクについて分析を行った.この結果から,個別リスクにも自己相関は残っていたが非対称性は観測されなかった.以上の結果から,個別株式のボラティリティには自己相関が存在し,弱い非対称性が観測されるが,その中から株式市場全体の変動を取り除くと非対称性は観測されない傾向があることがわかった.