出島 敬久
一橋大学経済研究所附属社会科学統計情報研究センター 研究集会「ミクロデータから見た家計の経済行動」 2012年3月3日
本論では,厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の個票データと,一橋大学経済研究所と経済産業研究所が作成したJIP(Japan Industrial Productivity)データベースの産業別市場集中度,産業別規制指標を用いて,財市場の構造と規制がその産業の賃金構造に与える影響を推定した。推定は,ミンサー型の賃金関数にこれら指標を説明変数に導入することで行われた。
第一に,賃金関数の説明変数に,産業ダミーに加えて市場集中度指標であるハーフィンダール指数と規制指標を導入すると,いずれも有意に正であり,不完全競争や規制はその産業の賃金を上昇させている。このとき,高賃金産業のダミー係数は,これら指標を入れない場合に比べ,おおむね小さくなる。顕著な例が電気・ガス業であり,不完全競争と規制により,産業間賃金格差分の8割弱が説明される。一方で,これら市場構造の指標の影響がほとんどないのが,教育・学習支援業と医療・福祉である。これらの高賃金の要因は財市場の構造や規制の存在ではなく,別の要因(労働者の人的資本やその供給制約)であることが推測される。さらに,市場集中度が高い産業,規制が強い産業ほど,賃金の勤続収益率も高いことも認められる。