平野寛弥
福祉社会学研究 2004(1) 129-148 2004年5月 査読有り
本稿は,中欧諸国の社会保障制度の動向に関するこれまでの研究の成果を基に,移行期と呼ばれる1980年代末から90年代半ばにかけての社会保障制度の特徴を整理した上で,中欧諸国の1つであるポーランドの事例を用いて社会保障制度と経済の関係について考察し,移行期における社会保障制度の意義を問うものである.ポーランド・ハンガリー・チェコをはじめとする中欧諸国は,1980年代末から開始された体制の移行に伴い,劇的かつ様々な社会変動を経験した.こうした状況の下,経路依存性と寛容性という共通した特徴を有する移行期の中欧の社会保障制度は,急速な経済の安定化,およびその後の経済成長を可能にするとともに,社会的・政治的な安定に貢献した.すなわち,社会主義体制下で構築された社会保障制度を修正しつつ最大限活用し,時間を要する社会保障制度の抜本的改革を先送りすることに成功したことが,移行期における中欧諸国の経済政策優先の姿勢を可能にした最大の要因である.したがって,中欧における移行期の社会保障制度の意義とは,体制の移行に適応できない人びとを寛容度の高い社会保障制度で一時的に吸収して潜在化することで,経済の効率化を促進させるとともに,経済政策に専心可能な状況を創出し,体制の移行の迅速な進展に貢献したことにあった.