西澤茂
管理会計学 : 日本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌 3(2) 43-60 1995年3月
本稿は,オプション取引の会計測定,特に買建オプションと売建オプションへのヘッジ会計の適用方法の違いを明らかにすると共に,オプション取引に関する会計情報を用いた一管理手法を提案することを目的としている.具体的には,ヘッジ目的でプロテクティブ・プットおよびカバード・コール・ライティングと呼ばれる通貨オプション取引を締結した取引モデルを想定して検討を行っている.2つのオプション取引の経済特性を検討してみると,プロテクティブ・プットの場合には,ヘッジ対象から損失が発生した時点で,同額の本源的価値の増加が発生するので,ほぼ完全なヘッジが働く.しかし,カバード・コール・ライティングの場合には,オプション料の受領という収益機会が得られる反面,そのヘッジ効果は受領した金額の範囲内でしか働かないばかりでなく,さらに為替変動が不利な方向に進んだ場合には,多額の損失を被る可能性がある.会計では,これらの経済的実質を反映した測定を行うべきであり,プロテクティブ・プットには,ヘッジ対象から生じる損失が発生した時点で,同額増加する本源的価値を測定するヘッジ会計を適用すべきであるが,カバード・コール・ライティングには,ヘッジ会計は適用すべきでない.さらに,それらの取引から生じるリスクを適正に管理するには,プロテクティブ・プットの場合には,オプション対象と同一通貨でのオプションを設定している限りヘッジ効果が有効に働くため問題はないが,カバード・コール・ライティングの場合には,為替変動に対してオプション取引から発生する利益または損失のポジションを適時・適正に把握する必要がある.