木村 洋   
日本文学 57(6) 42-52 2008年6月 [査読有り]
『小説神髄』以後の馬琴批判の文脈を考察するために、初期の松原岩五郎の著作活動を取上げる。従来注目されていないが、『最暗黒之東京』の作者として知られている松原岩五郎は、自らの文学営為の方向性を当時の馬琴批判との関連から勘案しており、貧民窟ルポルタージュの制作へと至るその一連の活動は、馬琴の支持者たる同時代の学士・知識人たちの価値体系との抗争として顕在化していた。本論はこの様相に着目しつつ、『小説神髄』以後、馬琴批判が当初のものよりも先鋭化された形で運用されていく展開を明らかにした。