置田 清和
The Journal of Indian and Buddhist Studies 64(3) 1081-1087 2016年3月31日 査読有り
ルーパ・ゴースワーミーは16世紀にヴィシュヌ教ベンガル派思想の基盤を構築した.彼はチャイタンヤ師の教えを受け継ぎ,『バーガヴァタ・プラーナ』などで描かれているクリシュナとゴーピーとの婚外関係において最高の信愛(バクティ)が表現されていると説いた.しかし,婚外関係を強調することは世俗の倫理的観点から,また詩論(アランカーラ)の観点からも批判された.これらの批判に対応するため,ルーパは独自の宗教的詩論を展開したが,その際14世紀に活躍したシンガブーパーラ2世の著作を活用した.この点は既にいくつかの先行研究で指摘されているが,いずれの研究も両著者の関係性を指摘するに留まり,シンガブーパーラがルーパにどのような形で影響を与えたのかを詳細に検討したものではない.従って,この論考ではシンガブーパーラによって著された『ラサールナヴァスダーカラ』とルーパの『ウッジヴァラニーラマニ』に焦点を当て,それぞれの作品が愛人(ウパパティ)と他人の妻(パロダー)についてどのような定義と例を示したのかを比較し,それによってシンガブーパーラがルーパに与えた影響を具体的に検討する.