伊藤伸介, 出島敬久
一橋大学経済研究所ディスカッション・ペーパー A No.571 (.571) 1-23 2012年6月
若年者の就業行動に家計資産や財産・家賃収入がどのような影響を与えているのかを,総務省統計局,「全国消費実態調査」の匿名データ(個票)を用い推定した。具体的には,世帯属性を制御した上で,家計資産や財産・家賃収入が高額になるほど,若年者の非就業の確率が高まるのかを検証した。さらに,親の所得の構成が子どもの就業に影響を与えるかも検討する。その結果,若年者の就業状況に対して家計資産の与える影響は,極めて限定的である。家計資産が多いことで高い資産所得が期待でき,就業意欲が抑制されているという理論的可能性は,現実にはごく限られた所得階層のサブサンプルでしか観察されない。このことから,若年非就業者に,働く必要性の低い「裕福な家庭」にいる人が統計的に有意な割合で存在する,という見解は否定される。たとえば,もともと就業意欲が低く,割のよい仕事しか受け入れられない「選り好み失業」の存在も,若年の労働力全体から見れば限定的といえる。