峯 布由紀
日本語教育 (182) 33-48 2022年8月 査読有り
本研究では,処理可能性理論に基づく発達段階において文処理の項目とされている受動文に注目し,その位置づけの妥当性と母語の影響について検討した。
研究方法は,学習者の縦断データ(中国語と韓国語母語学習者各3名の発話)と横断データ(中国語,韓国語,トルコ語,英語,西語母語学習者各50名の発話および日本語力テスト(SPOT)得点)を分析し,決定木(CART)分析により構築したモデルをもとに考察を行った。
分析の結果,受動文は複文処理を要するB類接続辞よりも使用開始が遅く,複文処理の段階の項目であることが支持された。また,CART分析により構築されたモデルは,受動文の使用が中級以降になること,中国語・トルコ語・英語母語群の方が韓国語・西語母語群よりも受動文を使用する確率が高いが,上級になると母語に関わらず受動文を使用するという,限定的な母語のナラティブの型の影響があることを示唆するものであった。