吉畑 博代
聴能言語学研究 5(1) 36-41 1988年
多発性脳梗塞により,連合型視覚失認を呈すると思われる症例の認知機能について報告した.症例は,58歳,男性.種々の知覚および認知検査結果より,線画・文字の模写や線画の異同判断は可能であり,統覚はほぼ保たれていた.聴覚・触覚モダリティーにおいては,認知障害は認められなかった.しかし,物体,線画,色彩,相貌,文字という刺激属性には関係なく,視覚モダリティーにおいては,一様に認知処理障害が認められた.また,物品使用法の動作,物品の指示,類別検査ともに困難であったため,視覚失語とは異なると思われた.よって,本症例の症状は連合型視覚失認と考えられた.<br>本症例の責任病巣は,両側の後頭葉内側面と考えられる.しかし,従来考えられきた連合型視覚失認の責任病巣と比し,本症例では右後頭葉内側面の損傷がかなり小さいことが特徴である.